CAST&STAFF

さおり役:
黒沢あすか(くろさわ・あすか)

10歳から児童劇団に所属し、1990年『ほしをつぐもの』で映画デビュー。柳町光男監督『愛について、東京』や、ドラマ「あすなろ白書」などに出演後、2002年の塚本晋也監督『六月の蛇』では、オポルト映画祭、東京スポーツ映画大賞などで主演女優賞を受賞。その後2010年の園子温監督『冷たい熱帯魚』では、殺人鬼の妻を演じた村田愛子役が評価され、ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。2017年のマーティン・スコセッシ監督『沈黙〜サイレンス』では主演ロドリコの妻を演じ、高く評価された。現在三児の母。

コメント

普通の女性を演じられることの愉しみを味わわせていただきました。圭作さんが演じられます旦那様はすこし自己愛強め(笑)さおりを思う気持ちに一点の曇りもないのは分かるのだけれど、どこか惜しい感じが否めません。結婚5年目バツイチ同士の慶介とさおり。ふたりの日常に“あるある”と思っていただけたら嬉しいです。

慶介役:
木村圭作(きむら・けいさく)

1986年「この子誰の子?」でドラマデビュー。Vシネマの出演は100本近い。アメリカ、フランス、香港、ベトナム、フィンランド等の海外作品にも出演。近年は自主、商業を問わず映画を中心に活動している。◎映画 :『喪服の女 崩れる』(01) 『ロックアウト』(08) 『Girl’s Life』(09)『ビヨンド ザ ブラッド』(12)『RED COW』(15)『破裏拳ポリマー』(17)『クライングフリーセックス』(18)『クライングフリーセックス Never Again 』(19)『カラオケや兆治』(19)『ストレガ』(19)他◎ドラマ:「俺の空 刑事編」(11)「ウルトラゾーン」(12)「ゆうべはお楽しみでしたね 外伝Ⅱ」(19)「すじぼり 」(19)他

コメント

今まで演じた役のなかで、この慶介という人間が一番自分自身に近いかもしれません。もちろん違う部分もあります。
妻さおりを空気のような、居て当たり前の存在と感じ、役づくりせず瞬間瞬間を自分自身で生きてみようと挑みました。準備の段階では慶介が発する様々な音にもこだわりました。
梅沢壮一監督と黒沢あすかさんと一緒にモノづくりが出来たことは自分の財産です。この作品に携わった全ての皆様に感謝。そして多くの方に届きますように。

監督: 梅沢壮一(うめざわ・そういち)

高校時代から独学で特殊メイクの勉強を始める。卒業後、地元映画館の映写技師の仕事をする傍ら、造型作品を作っては米国特殊メイク界の大御所、ディック・スミス、リック・ベイカーらに送り、アドバイスをもらい続けた。ベイカー氏の紹介により、23歳より日本で仕事をスタート。5年間のフリーを経て29歳で独立。現在、株式会社ソイチウムの代表。
近年は映画制作を積極的に行い、自ら脚本、監督を担当する。2015年のホラーオムニバス映画「ABCs of DEATH2」(アメリカ)では日本代表として一編を監督。2017年の長編デビュー作「血を吸う粘土(VAMPIRE CLAY)」は、カナダのトロント映画祭・ミッドナイトマッドネス部門のクロージング作品に選出され、テキサスFANTASTIC FEST2017ではホラー部門の特別賞を受賞した。

コメント

とても小さな話しです。
昨日と何が変わったのか誰も気がつかないほどの些細なこと。でもその人にとっては、明日も日常と向き合うための大事な出来事だったりします。
小さな気付きが嵐に変わってしまった自分の想いにどう向き合うのか。
さおりの葛藤する脳内を楽しんでいただけたらと思います。

主な参加作品

◎映画
『天守物語』(95)『富江 最終章』(02)『亀は意外と速く泳ぐ』(05)『孤高のメス』(10)『CUT』(11)『桐島、部活やめるってよ』(12)『進撃の巨人』(15)『暗殺教室(1&2)』(16)『亜人』(17)『ギャングース』(18)『Diner ダイナー』(19)他

◎テレビ
「怪物くん」「妖怪人間ベム」「勇者ヨシヒコと魔王の城」「地獄先生ぬ〜べ〜」「ペコロス、母に会いに行く」「CROW’S BLOOD」他

◎監督作品
『ABCオブデス2〜若さ』(2015) 『Thorn』(短編)(2016) 『領域』(VR)(2016) 『血を吸う粘土』(2017) 『血を吸う粘土〜派生』(2019)

【梅沢壮一監督インタビュー】

——『積むさおり』製作の始まりを教えてください。

15年ほど前に書いた台本が始まりです。会社のルールに翻弄され、不満を言えない女の子の鬱屈した思いが、ある日会社の置き物に乗り移り、どんどん膨らんでいきます。最終的に彼女は上司に冷たく捨てられますが、自分のアイデンティティを取り戻すため、憎き会社へ向かって行く。その際に、周りの音やすれ違う人の会話、道中で発生する音を味方のように背負って行く、という内容です。

——今回、主人公を“中年夫婦”という設定にしたのはなぜでしょうか。

2016年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で「THORN」(主演:黒沢あすか)という15分の短編を上映していただくことになり、事務局の外川康弘さんから「枠が1時間あるので、他にも何かやってほしい」とお声がけがあって。そこで先ほど話した構想を映画にしようと思いつきました。ただ上映まで期間も短かったですし、15年前に考えた内容は話も壮大だったので無理だった。僕自身も40代半ばになっていて、隣を見れば役者(黒沢あすか)がいるわけです。「この世代が抱える不満ってなんだろう?」という疑問から、中年夫婦の“埋められないもの”をテーマにしようと考えました。「不満がどんどん形になって膨らんでいく」という当時の構想に対し、『積むさおり』では内に内にと溜め込んでいく展開にしました。

——映画の前半は夫婦の日常が描かれていますが、よく見ると関係の“綻び”がそこかしこにあります。監督ご自身は二人をどんな夫婦だと捉えていましたか。

僕の性格が、どちらかというと“さおり派”なんだと思います。使ったものは必ず元の位置に返すし、脱いだ服がひっくり返ればその場で直す。さおりと慶介は、過去に何があったか分からないけど一度離婚を経験している。そんな中、お互い出会って「次はもう失敗できない」という気持ちで再婚したと思うんです。だから相手のちょっとしたことには目をつぶろうと。ただ夫婦としてのルールが、さおりと慶介とでは全く違うんですよね。慶介も気を使っているはずですが、とにかく自分の時間軸は大事で、筋トレ中は頑として犬の世話もしてくれない(笑)。そうした無神経さに、さおりは自分でも気づかないうちに不満を溜めていくわけです。

——さおりの心の揺らぎを表すために、彼女が仕事で描くイラストが効果的に使われていますね。

絵は黙々と作業をするので、嫌でも自分と向き合うことになります。しかも彼女が描いているのは、結婚雑誌に掲載される幸せそうな夫婦のイラスト。目の前の絵が自分を見つめ直すきっかけになってしまう皮肉なシチュエーションに彼女を追い込みました。おそらく、さおりは人間的に自立しているのでひとりでも生きていけるはず。「それでも慶介と添い遂げるんだ」という葛藤とのせめぎ合いを描きました。

——そうして静かに怒りを溜めていくさおり役の黒沢あすかさんが、これまで演じてこられたエキセントリックな役柄と違って新鮮でした。

これまで彼女が演じてきたのは、ぶっ飛んだ役や感情の起伏が激しい役でした。本人の中にも近い要素があると思うんですけどね(笑)。ただ黒沢は三児の母親でもあり、「普通の役をやりたい」とずっと言っていたんです。それは僕も見たかった。『積むさおり』は、彼女が役者として目指したい方向とも合っていたように思います。・・とは言え、今回も陰の強い面がありますが(笑)。

——自己陶酔的な夫を演じた木村圭作さんもハマり役でした。

圭作さんとは、20年ほど前に、Vシネマでご一緒しました。それ以来、どこかでお仕事できたらと思っていて。今回『積むさおり』の旦那役を考えたときに、ご自身のSNSに筋トレ中の動画を頻繁にあげていた圭作さんを思い出して、慶介を筋トレに夢中な夫という設定にしました。だからほぼ当て書きです。ご本人の性格までは把握していなかったんですが、作品をご覧になった圭作さんのご家族が「いつものパパじゃん!」とおっしゃっていたみたいです(笑)。

——さおりが穴をのぞいた途端、耳鳴りが始まる設定が、どこか昔話を思わせます。

特に意識したわけではなかったんですが、考えてみれば「王様の耳はロバの耳」的なお話ですよね。穴をのぞくという発想は、僕自身が日課にしている犬の散歩がきっかけでした。歩きながら景色を見たり、落ちているものを見つけたり……。森の中で木々が積まれている場所を通ると「あの中には、何かがあるんじゃないか?」と。そこから、さおりがそんな日常の中に何かを見つける、という設定を思いつきました。多分、僕の“隙間が見たい願望”なんだと思います。物語の終盤、穴の中をあるものが落ちていき、さおりが上からのぞくシーンがあります。撮影にあたり、金網製の巨大な筒の内側に枯葉をたくさん貼り、それを知り合いの工場に持ち運んで足場を組み、最終的に高さ6メートルほどの穴を作りました。どこまでも深そうな穴……という印象を出すためには、このくらいの高さが必要でした。自主映画レベルではないセットになったと思います。

——耳鳴りの再現にあたって、苦労された点を教えてください。

音響を担当してくれた神山順くんには、相当研究してもらいました。というのも “聞こえにくくなる”という描写は非常に難しい。最初に作ったバージョンは、相手のセリフも聞き取れないぐらい、音がこもってしまって。これでは、観る側にストレスを与えることはできるけど、話を理解できないまま進んでしまう。聴きやすく、かつ耳鳴りが起こっているという、ちょうどいいバランスを再現するために、バックにうっすらとキーンという音を流したり、試行錯誤を繰り返しました。映画『プライベート・ライアン』の終盤、爆発の直後にトム・ハンクス演じる主人公の耳が一瞬聴こえづらくなるシーンがあります。耳の中がゴボゴボ鳴って、水の中にいるような感覚になる。明らかにさっきまでの爆発音と違う。こういう状況は違いがはっきりしているので、聴覚の異常が伝わりやすい。でも今回の『積むさおり』はもともと大きな音が出ているわけじゃない。そのコントラストを出すのは難しかったですね。

——日常にはこんなにもたくさんの音にあふれていると気づかされる映画でもあります。

僕は普段から極端に“音”を気にするタイプなんだと思います。今でも、寝るときは耳栓をしてニット帽をかぶっていますし、仕事場でも、流れてくるラジオの音と、誰かが向こうでおしゃべりしている声が同時に耳に入って来ると、何を聞いていいか分からず混乱するんです。音の整理をつけるのがとても難しい。 それに、人がたてる音で相手の性格や気分が分かりますよね。物を「ドン!」と置けば、姿が見えなくてもイライラしているんだなと感じるし。視覚からの方が物事を理解しやすいかもしれないけど、普通に生活している上で、実は聴覚からの情報は多いと思っています。

——いよいよ劇場公開です。観客の皆様にどう感じて欲しいですか。

「あまり観たことのない映画を撮りたい」という思いがありました。おそらく『積むさおり』も、僕以外の人が撮ったら、暴力的な描写やつらいストーリーに走ってもおかしくないと思うんです。でも、僕が描きたかったのは、静かに生きている人たちが目の前の問題を自分の力で解決していく姿。何か不満が生じたとき、相手を傷つける人もいますが、当然そうじゃない人の方が多い筈です。言いたいことがあっても、関係を崩したくないから言えない。SNSも発達しているけど、そばにいる人については口をつぐまざるを得ない。もしかしたらSNSがなかったときより、今のほうが追い込まれている感覚が強いかもしれません。そうして不満を溜め込んだ人の内宇宙ではとんでもないことが起こっていて……そんな人があちこちで生きているんじゃないかという思いを、僕なりの解釈で描いたつもりです。  映画のラスト、さおりは、不満を解決する彼女なりの“術”を見つけます。「私はこれでやっていける」と。そこに絶対の答えはないけれど、さおりは明日も明後日も日々を積んで重ねていく。その琴線に触れてくれる人がいてくれると嬉しいですね。

2019年11月2日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開!!